2012年01月31日

【本】 本とマンガ、今週の数冊('11 12/18-12/25)


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腰ぬけ連盟


● → 本 
○ → マンガ


レックス・スタウト「THE LEAGUE OF THE FRIGHTENED MEN」
(邦題「腰ぬけ連盟」)


探偵ネロ・ウルフを主人公とした、アメリカの古いミステリー小説。
ネロ・ウルフは日本ではそれほど知られていないものの、アメリカではシャーロック・ホームズに迫る人気の名探偵。
その中から、これは1935年に発表された第2作目(※1)

このシリーズの魅力はなんといってもウルフの特異なキャラクター。
美食と蘭の花を好む肥満の巨漢で、よほどのことがない限りニューヨークの我が家から一歩も出ようとせず、贅沢な暮らしを維持するために、求める依頼料は法外。
ネロ・ウルフほど銀行の残高や税金のことを気にする探偵は見たことがない。
決まった時間以外は絶対に仕事をせず、用があれば人を呼びつけ、頑固で傲慢で自己中心的で、しかし天才。

家から出ないウルフに代わって事件の情報を集めてくるのが、助手にして作品の語り手のアーチー・グッドウィン。
こちらはウルフと対照的に、都会を自在に闊歩する行動的なハンサム。
アーチーのユーモアと皮肉に満ちた一人称も作品の大きな魅力のひとつ。

さらにこの作品ではウルフとアーチーに関わるキャラクターも際立っていて、個性のぶつかり合いが楽しめる。
おそらくモリアーティ教授(※2)をイメージしたのではないかと思われる屈折した作家。
鉄の意志と頭脳を持った、恐ろしく醜い作家の妻。
作家に殺されることを恐れながら表面的には友人のふりをし続ける、30人の怯える男。

実はすでに3、4回読んでいて、犯人も結末も知っているのだけど、それでも機知に富んだやりとりは面白い。

※1 30作を超える長編、50作を越える中・短編が出版されているが、日本では未翻訳・絶版の物が大半。
※2 シャーロック・ホームズシリーズに登場する、ホームズの最大のライヴァル。知的で冷酷な人物。
   レックス・スタウトはホームズファンとしても有名で「ワトスンは女だった」という論文を発表したことがある。



田口雅之+小池倫太郎「ブラック・ジョーク」1〜5巻

物事を"マンガみたい"と表現することがある。
あまりにとんでもないだとか、大げさだとか、バカバカしい、都合がよすぎる、そういう時に浮かぶ言葉だと思う。
そしてこれは、"マンガみたい"なマンガ。

舞台は国際的なマフィアの競合地である巨大歓楽街、ネオン島。
登場するのは、改造車椅子を乗り回して裏切り者を轢き殺すイタリア人マフィアのボス。
機関銃でミンチにされるタイ人の暗殺者。
アイスのスプーンで人の目玉をくりぬくゴスロリ忍者。

セリフには「(笑)」や「(泣)」が多用され、絵はテカテカした下品なCG。
たとえば浅野いにお(※)の対極を行くような豪快なエロ・グロ・スプラッター。
キャラクターの内面なんて描かれないし、成長もしないし、理屈じゃないし、リアルじゃないし。
作者からして"B級"を公言しているが、その通り。
体に悪いけど美味しいカップラーメンのようで、やめられない。

現在もヤングチャンピオンで連載中。

※ 「ソラニン」「おやすみプンプン」などの作者。悩める若者の心理を繊細に描くことで定評がある、オシャレな漫画家。


小川未明「金の輪」「馬を殺したからす」「電信柱と妙な男」「犬と人と花」他

「日本のアンデルセン」とも呼ばれる児童文学作家(代表作は「赤い蝋燭と人魚」)の短編をいくつか読んだ。
特に「金の輪」を読んで、呆然としてしまった。

非常に美しい言葉で、しかし書かれているのはこの世のことだと思った。
人が生きていたら必ず出会う、どうしようもない悲しみがそのまま書かれている。
童話だけれど、おとぎ話ではない。
救いはくるとは限らない。
優しい人が助かるわけではない。
倒すべき「悪」ではなく、"そうなる時はそうなるのだ"という現実の抗いようのなさ。
こんなに辛いものが、子供に読ませる話だろうかとも思う。

この話を読んで、心が震える。
しかし、その震えによって、読み手の子供は自分の心の内にある物を教えられる。
「可哀想に」と思うことで、自分の中に優しさがあることを知る。
「ひどい」と思うことで、自分の中に正義があることを知る。

ああ、これが「道徳」なのかと感じた。

もちろん文章の美しさだけをとっても素晴らしい。
「馬を殺したからす」の、若い赤毛の馬が海に向かって跳ぶところなどは、一枚の絵のように頭に浮かぶ。

「電信柱と妙な男」は、1910年に初出の作品でありながら、主人公はひきこもり。
人付き合いが嫌いで夜だけ出歩いて、文句ばっかりで、自分を棚に上げて人の悪口を言って、人目が無いと強気だけど人が見ていると…。
現代の、ネット弁慶のひきこもりを予言していたよう。

作品ごとに登場する日本の村の風景が、小泉八雲(※)の作品みたいだと思っていたら、八雲の大学教授時代の生徒だったそう。
小泉八雲の「知られざる日本の面影」などとあわせて読むと、より情景が迫ってくるかもしれない。

※ 小泉八雲/ラフカディオ・ハーン(1850/6/27-1904/9/26)は日本を愛し、日本を研究したギリシャ人。代表作は「怪談」。
  早稲田大学で教授をしていた時期があり、小川未明との出会いはその時。

 

ディーン・クーンツ「What the night knows」

(ネタバレ注意!)

クーンツは、アメリカのベストセラー作家だそう。
主なジャンルはホラー、SF、近年はアメコミの原作なども担当しているんだとか。
どういう作家なのか知らないで読み始めたら、最初の期待とはずいぶん違ったけど、なかなか面白かった。

最初の期待と違うというのは、これはサイコサスペンス(「羊たちの沈黙」みたいな)だと思って読み始めたから。
過去、家族を殺されたトラウマを抱えた刑事が主人公。
20年前おきた連続殺人事件にそっくりの殺人事件が発生し、過去同様の殺人が続けば、最後のターゲットになるのは刑事の家族。
謎めいた悪意から家族を守るために、彼は何ができるのか!?
と、本格派な雰囲気だと思ったら、途中から……あれ、犯人て、霊?悪霊?

ちょっとがっかりしたものの、そういう話なんだ、ホラーなんだといったん納得。
この悪霊は読んでて「ズルイだろ!」と叫びたくなるくらい強くて悪い。
自由に人から人へ乗り移り、乗り移った相手を完全に操ることができるというのがずるい。
建物に乗り移ることもできて、勝手に家の鍵を開け閉めしたり、他人のふりをして電話をかけたり、好き放題。
ちなみに性格は拷問と殺戮を好むロリコンの強姦魔。
幼児愛好は、アメリカにおける最悪の悪の1つなのだということがわかる。

そんなやつにどうやって対抗するんだろうと、ドキドキしながら読み進めると……え、撃つの?
いろっいろ複線はあったけど、最終的に神のご加護&ピストルでめった撃ち。
最後はファミリーで抱き合って「I LOVE YOU, Daddy!!」

えーー…、ハリウッド映画を1本みたような、そんな読書。
まあ何だかんだでハリウッド映画が面白いように、読んでる間は楽しかった。
一般的なアメリカ人の感覚や発想を垣間見られたという意味でも面白かった。
後から調べたら、作者はどっちかと言うとB級の作品を量産する作家で、しかも近年は"後半が投げやりと評判"らしい。
うーん、その通りだね。

2011年7月に発売され、日本ではまだ未翻訳のよう。
  
  
  
長谷川 菜菜 [PROFILE]
     
   
   
長谷川 菜菜ブックレビュー:インデックス

本とマンガ、今週の数冊('11 11/03-11/10)
本とマンガ、今週の数冊('11 10/15-10/22)   
本とマンガ、今週の数冊('11 10/01-10/08)
芳醇な熱帯の夢 -「グアテマラ伝説集」M.A.アストゥリアス
きらびやかな知識の集合体に魅せられて -「黒死館殺人事件」小栗虫太郎
植物化の蔓延する時代に -「デンドロカカリヤ」安部公房
空想を忘れた者への矯正具 -「はてしない物語」ミヒャエル・エンデ
終わらない堂々巡り -「ドグラ・マグラ」夢野久作
   
   
    
posted by ジャンク派 at 23:19 | Comment(0) | 【ブックレビュー】
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