2011年11月05日

【本】 視点と語りと私の死体 -『夏と花火と私の死体』乙一

夏と花火と私の死体.jpg
  
 
今回は私の大好きな作家である乙一『夏と花火と私の死体』を紹介したいと思います。

この作品は乙一氏、十七歳の時のデビュー作。
執筆当時は十六歳だったそうで――十代の男の子が書いたとは思えない実力。
この作品を読んで私は乙一氏の大ファンになってしまいました。

『夏と花火と私の死体』はジャンプ小説・ノンフィクション大賞の第六回大賞受賞作です。


簡単なストーリーを申しますと、主人公は9歳の五月ちゃんです。
五月ちゃんが『わたし』として物語のストーリーテラーになっていきます。

五月ちゃんは弥生ちゃんと仲が良くいつも一緒に遊んでいます。
五月ちゃんは弥生ちゃんのお兄ちゃんである二つ年上の健くんに密かに恋心を抱いています。

しかし、この小さな恋心が大きな事件に発展するのです。

森の中に入り木登りをして遊ぶ、五月ちゃんと弥生ちゃん。
弥生ちゃんは五月ちゃんに向かって「……弥生は違う家に生まれたかった」と言います。
「もしかして健くんと結婚できないから違う家に生まれなかったの?」との五月ちゃんの問いに、
なんと弥生ちゃんは頷いてしまうのです。

実は五月ちゃんと弥生ちゃんは恋のライバルだったのですね。

そんな二人の恋心を健くんは知らずに
いとこの緑さんに憧れているという複雑な人間関係なのですね。

五月ちゃんは弥生ちゃんの告白を聞き
「わたしも……健くんのこと好きなんだ……」と伝えてしまいます。


ここからがこの作品のすごいところ。

五月ちゃんが健くんを好きだと知った弥生ちゃんは
五月ちゃんを木の上から突き落としてしまいます。

落ちて行く五月ちゃんそして――五月ちゃんは打ちどころが悪く死んでしまうのです。

語り手である五月ちゃんが物語の序盤で死んでしまう。なんてこと!! 
まだ始まったばかりの物語は誰が語っていくのでしょう? 
心配になってしまう展開です。

しかし、ここがこのストーリーの始まりなのです。
なんと、ここから先は死者となった五月ちゃんが全て語っていきます。

自分の死体を弥生ちゃんと健くんが必死に隠す様子を実況中継するような感じです。
もちろん、五月ちゃんは喋りもしませんし、動きもしません。
死んでしまっているのですから。

ただ、二人がどのようにして死体を隠すのかを見ているのです。
それは、死体の目線からではなくどこか遠くの方から見ているような感じです。
幽体離脱しているような――とにかく不思議な感覚。初めて読んだ時は衝撃的でした。


五月ちゃんは死んでしまって神の視点になり変わります。

神の視点というのは、
五月ちゃんが弥生ちゃんの心の中も健くんの心の中も分かってしまうような感じです。
いろいろな人の目線になり、五月ちゃんから離れた場所のことも全てわかってしまいます。

多視点になってしまうと、ストーリーが掴みにくくなってしまったりするのですが、
この作品にはそういった所がなくわかりやすく進行します。

この小説のすごいところは、視点だけではありません。
ストーリーも飽きさせません。

弥生ちゃんと健くんは死体が見つからないように右往左往します。

しっかりものの健くんに甘えん坊の弥生ちゃんと、キャラクターもしっかりわけられています。
いつも死体の隠し場所を考えるのは健くんでそれに従うのは弥生ちゃん。

どんなに上手い隠し場所を見つけてもいつも、
弥生ちゃんのお母さんだったり、緑さんだったり、五月ちゃんのお母さんだったりに
見つけられそうになってしまうのですが、見つかる寸前ギリギリのところで回避します。
ハラハラドキドキの展開にどんどん惹きこまれていきます。

何度もピンチを脱出する健くんと弥生ちゃん。

一難去って、また一難。
超える度に大きなハードルが二人の前に迫ってきます。

それでも、健くんが知恵を振り絞りなんとか乗り越えるのですが、
やがて飛び越えられそうにないハードルがやってきて。

衝撃的のラストも見事です。


伏線の張り方が上手いので
最後まで読むと文章に無駄のない小説だなと感心させられてしまいます。
 
正直、何度も読んでいるのですが毎回、はあと溜息が出てしまうほどすごいのです。
決してファンだからといって過剰に褒めているわけではないのであしからず。   
   
   
   
『夏と花火と私の死体』
乙一 著 (集英社文庫)
  
  
  
舟崎 泉美 [PROFILE]
     
   
   
   
posted by ジャンク派 at 15:23 | Comment(2) | 【ブックレビュー】
この記事へのコメント
購入しましたw
ですが・・・読んでないんです^^;読もうと思いました。
自分も乙一さん好きで・・・好きな作家さんは?といえば
名前を挙げる方です。

というか実際はほかの方の小説はさほど読んだ経験がない。
映画化された君にしか聞こえないは読んだかな・・・。

17歳でという言葉に惹かれ読んでみたくなりましたね^^
さらに・・・。
そういうとっかかりのようなものがないと
乙一さん大好きという理由で購入した本でさえ後回しにしてしまう。

本は切らすことが嫌でどんどん購入するので
必然的にストックというか・・・
山ができる・・・・。

山の中にあった本を救い出してくれたのが
この記事ということになります。

ありがとうございます。
Posted by かつおわかめ at 2011年11月08日 03:27
  
>かつおわかめさん

読まなきゃ、読まなきゃ…
って、思いつつも、後回しにしちゃって、
それがどんどんたまっていくってこと、

それ、とってもよくわかります…

このレビューがとっかかりのきっかけになってくださったなら、
書いた本人にとっては、
たいへんな励みになると思います。

貴重なコメントをありがとうございます。
    
Posted by ジャンク派 at 2011年11月09日 17:29
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