2011年10月12日

【本】 全てはてのひらの上 -『てのひらの迷路』石田衣良

てのひらの迷路.jpg
  
 
ブックレビューを書かせてもらうことになりました舟崎です。
普段は書店でアルバイトしながら、小説家を目指しています。
まだまだ、修行中の身です。

最近、思うのは本を読む人と書く人は全然読み方が違うということ。

書く人は構成だったり、キャラクターだったり、文章だったり、
他にも自分の小説作りの参考になると思う部分に注目します。

読む人はやはりどれだけおもしろいか、いかに話にのめりこむか、
どれだけ感情移入できるかというところが一番じゃないでしょうか? 

まあ、これも個人の見解ですが……

というわけで、
できるだけ書く人の立場でのブックレビューを目指していきたいと思います。


記念すべき第一回に紹介する作品は石田衣良の『てのひらの迷路』です。

作者が川端康成の『掌の小説』に触発されて書いた掌小説です。
ショートショートを毎月原稿用紙十枚で二年間連載し、まとめたものです。
二十四編のストーリーが一冊の本に収められています。

ジャンルはエッセイ風のものから、私小説、ファンタジー、ホラー、恋愛など様々。
一つ一つの作品の前には必ず作者の解説が入っているという変わった造りになっています。

二十四作品全ては取り上げられいので、気になった作品を何点か取り上げてみたいと思います。

まずは『ひとりぼっちの世界』から。
作者が横浜で女性と一緒に暮らしていた時の実話です。
作者の同棲相手である彼女との別れ話がメインになっています。

「わたしたちはもう一緒に暮らしていけないと思う」と言う言葉から別れは始まります。
彼女は決して彼のことを愛していないために、別れようと言いだすわけではありません。
別れたい理由を連ねながらも「でも、あなたのことを嫌いになれないと思う」と言います。

彼女は彼が周囲に作る壁に悩んでいます。
仕事に対しても、友達付き合いにしても、恋愛に関しても、彼が作る見えない壁。
二年間一緒に住んでいても孤独を感じていました。

「わたしはあなたと腕を組んでいても、ひとりで歩いていた」
二人で居ても独りで居るみたいと感じる瞬間は、誰にもでもあるのでは。

もちろん、私にも何度もあります。
わかる、その気持ちと何度も頷きながら読んでしまいました。
人気作家にも普通の人と変わらない切ない恋愛経験があるのだなあと少し安心してしまいます。

それにしても会話がリアル。やっぱり実話だからでしょうか? 
誰もが感情移入してしまう作品に仕上がっています。


続いては『I氏の生活と意見』
小説家を目指す者としては一番気になった作品です。

I氏というのは、もちろん作者の石田衣良氏のこと。

内容はフリーランスで広告の仕事をしていた作者が、
何故小説家を目指したのか、どういう経緯でデビューしたのか、
ということがエッセイ風に書かれています。

新人賞にて二度最終選考まで残るが、二度とも落選。
その後、三度目に最終選考に残った作品で受賞しデビュー。

受賞の連絡を受けた翌日――目覚めた朝は、予想以上に素晴らしかった――
どれだけ、清々しい気分で朝が迎えられるのだろう。私も早く体験したいと思います。

解説には――そこの十代二十代のあなた。デビューしてからも人生は続く。
もっとのんびりと遊んで、たくさんの素材を仕こんでからでも、遅くありませんよ――
とあります。
作者もデビュー後苦労したのでしょうか? 小説を書く若者へのメッセージが書かれています。

それにしても立て続けに三度も最終選考に残るなんて、
やはり作者は才能があったのだなと思わせる作品です。


最後は二作品を同時に取り上げたいと思います。
『短篇小説のレシピ』『最後と、最後のひとつ前の嘘』です。

この二編は繋がっています。
『短篇小説のレシピ』では何もない状態から小説を作っていく過程が書かれています。

最初に決まっているのは〆切と枚数だけ。

直木賞受賞直後の忙しさの中、
本番前のテレビ局の楽屋でプロットから練り上げていく様子が十枚に収められています。

ああでもない、こうでもない、と考え続けようやくプロットが完成。
タイトルまで決まったところで、次回へと続きます。

次回作にあたるのが『最後と、最後のひとつ前の嘘』
こちらは前作『短篇小説のレシピ』で作ったレシピ通りに作品が構成されていきます。

こちらの作品はファンタジーです。
不倫相手と一緒に居る時に死亡してしまう主人公。
死後も不倫相手をかばおうとする姿が切なく書かれています。

内容もおもしろいのですが、是非、小説作りの工程を楽しみながら読んで頂きたいです。

この二作品以外にも『片脚』『左手』も対になっており
『左手』は『片脚』に対するアンサー小説です。

『片脚』は彼氏の視点から『左手』は彼女の視点から描かれているものになります。

その他、直木賞受賞後正真正銘一作目の『完璧な砂時計』や、
全編会話だけで進行していく『コンプレックス』
夫の子どもに対する嫉妬が次第に恐怖を帯びていく『ジェラシー』などなど、
取り上げきれないぐらいのボリュームでショートショートならではの遊び心が満載です。

『てのひらの迷路』は日常の中から切り取られたようなストーリーがいくつも連なっています。

連動している作品も多く、まさに迷路のような繋がりで読める作品です。

その迷路もタイトル通りてのひらの上に乗っていると思うと、
読み手は作者の意図に踊らされて読んでいるような不思議な気持ちになります。

作家を目指すものとしては、作者の裏を読みたいと思うのですが……。   
   
   
   
『てのひらの迷路』
石田衣良 著 (講談社)
  
  
  
舟崎 泉美 [PROFILE]
     
   
   
   
posted by ジャンク派 at 23:07 | Comment(1) | 【ブックレビュー】
この記事へのコメント
  
今回から新たに、作家志望の舟崎泉美さんが、
書評のコーナーに加わってくれることになりました。

作家を目指す作り手側の立場からの視点で、
どう作品を紹介してくれるのか、

今後も楽しみにしたいと思います。
   
Posted by ジャンク派 at 2011年10月12日 23:44
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: