2012年01月06日

【ジャンク派 連載小説】 チェン・スウリー作 『中央線を抱きしめろ!!』 第4回

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前回までのあらすじ

東京 高円寺で小さなバーを営むユウヤ、そこへ田舎から長らく会ってない兄がやって来た。
けれども、兄に複雑な思いを持つユウヤは、そっけなく接して兄を帰してしまう。
その態度を常連客のユキにとがめられ面白くない。ユキはそのまま店で酔いつぶれ、
閉店後の店内に置いて帰るわけにはいかず、ユウヤは自分のアパートに連れて帰った。
自分の部屋のベットで横たわるユキの姿を見て、ユウヤはユキへの淡い恋心に気づく。



第4回


ユキは、ユウヤのやさしさを感じながら、
とっても心地よい気分で眠りに入った。

ほんとうは、ところどころ、突っ込みどころが満載で、
笑いを堪えるのに必死だった。    

ユウヤが側に突っ立ている気配を感じた時も、
なに、人のことじろじろ見てんだよ〜って言ってやりたかった。

だって、恥ずかしいじゃんか……
 
それから、暗闇でそっと目を開いてみたら、
ユウヤがかけてくれた毛布は、豹柄の毛布で、
ぷーっ、何なの、ウケるぅ〜、って思った。
 
ユウヤはアタシを見つめながら、どんなことを思ってたんだろう?
間抜けな面して、寝てんなぁとか、思われてたのかな……

さすがに、迷惑かけ過ぎで、ウザいヤツだったよね。
いつも酔っては悪態ついてるし、もう、飽きられちゃったかなぁ……
 
けど、ユウヤはやさし過ぎ。
馬鹿野郎、だよ。

けど、今、ユウヤの部屋にいることが、よくよく考えてみたら不思議に思えた。
ユウヤのうちに来てんだ、アタシ。
 
正面の壁には、イーゼルが立てかけてあった。
そう言えば、ユウヤ、昔、絵とかやってたって言ってたもんね。
まだ、絵は描いてるのかなぁ?
 
ちょっとわくわくして、薄暗い部屋のなかを物色してみた。
ベットのそばには、本が無造作に積み上げられている。
文庫本の表紙が反れ返っていた。
いろんな本があってすごい。
 
あ、ギターもある。
こんな部屋にユウヤは住んでんだ〜
いろいろあって散らかってるけど、なんか面白い。
すっごい変な顔のチェシャ猫のぬいぐるみみたいのも転がってる。
謎! なに、あれ……(笑)
 
前、下北のヴィレッジヴァンガードで見た
都築響一の『TOKYO STYLE』て写真集に出てるような、
文化系男子の部屋だなぁって思った。
 
人のうちなのに、男の人の、部屋にいるのに、
すっごい安心した気分な自分が、不思議だった。
 
そんで、へんてこな毛布を鼻のとこまでかぶって、眠った。


     *


「ユキ、だいじょぶかぁ〜? 気分悪くない?」

 えっ……?
 向こうの方から、呼びかけられた。
 
もうすっかり明るくなってる。
ベットの上で、背伸びしてみた。

「ごめんね、ユウヤ。迷惑かけちゃったね……?」

「ほんとだよ、お前〜」

「あのさー」

「ん?」

「トイレ借りていい?」

「そこだから、洗濯機置いてるとこの奥」

 ユウヤはそう言って、指差した。

なんか、ユウヤに顔を会わせるのがちょっと恥ずかしくて、
アタシの視線は、宙に浮いていた。
 
ユウヤは、薄いブルーのサラサラして軽そうな半袖シャツに着替えてた。
 
ごく自然に普通に振舞ってるユウヤにちょっとくやしくて、
アタシもなるべく普通にしようって思った。
 
部屋を出ると、ふたりで階段を下りた。
鉄の階段が、カンカン、カンカンと大きく鳴り響く。
 
朝の空気。
 
こんな朝って、ちょっと愉快な気分だ。

「駅まで送ってくよ」

「えっ、大丈夫だよ……」

「自転車で行けばすぐだからさ。はい、乗んなっ」

 ユウヤは、階段のすぐ下に着けてあった自転車にまたがった。

「うん」
 
風を切る自転車のうしろで、高円寺って、なんて素敵な町だぁって思った。
 
好き過ぎるぅ〜!
 
純情商店街も、PALも、ルックも、庚申通りも、
東通りも、四丁目カフェも、ライブハウスやバンドマンも……

それから、誰かさんがやってる“アプリコット”とかいうやる気ない店も。
へんな名前、やる気ねぇ〜名前……(笑)
 
ほんとは、そっと、この背中に顔を寄せたかった。

駅北口の前で、アタシは自転車を降りて、
ユウヤにありがとうを言ってから、改札に向かった。
 
いっかい振り向いて手を振ったら、
ユウヤも、手をあげて、「じゃねっ」って言った。
 
中央線のホームは、高架の上にあって、町が見渡せる。
ひゃっほーとか、叫んでみたかった。
 
あぁ〜、マジばかだは、アタシ……
 
にやにやしてたら、隣のおばさんと目が合った。

やばっ、恥ずかしっ……


   
続く
   


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中央線を抱きしめろ!!
チェン・スウリー

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posted by ジャンク派 at 17:15 | Comment(0) | 【中央線を抱きしめろ!!】

2012年01月13日

【ジャンク派 連載小説】 チェン・スウリー作 『中央線を抱きしめろ!!』 第5回

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前回までのあらすじ

東京 高円寺で小さなバーを営むユウヤ。常連客のユキが店で酔いつぶれ、置いてくわけにもいかず、
ユウヤは彼女を自分のアパートに連れ帰った。それ以来、互いに意識し出すようになったふたり。
ユウヤは、ユキが酔いつぶれた晩に久しぶりに上京してきた兄のことも気になっていた。



第5回


昨夜、ウチに泊まってったユキを駅まで送ってから、オレは部屋に戻った。

実は、結局、オレはあれから眠っていない。
いろんなことに、思いをめぐらしてしまって、寝れなかった。
ソファーが窮屈だったってのもあるけど。
 
だいたい、兄貴のやつ、なんで、あんなすぐ、店を出てっちゃったんだ。
オレが迷惑そうにしてるの、伝わったのかな? 
気を悪くしたのか……?
 
もしかしたら、ユキが、泊まることになるってのを、読んでたとか。
いや〜、さすがに、それはないよな、深読みし過ぎか……
 
いや、けど、あれで、なかなか鋭いとこあるから、怖いんだよなぁ〜
気をつかってのこと?
けど、まさかな……
 
で、そういやぁ、新宿にホテルとってるとか、言ってたけど、あれ、ホントか?
いま、どこいるんやろ〜?
ひょっとして、まだ高円寺?

けど、高円寺なら、一軒だけあったカプセルは、確か改装中やったしなぁ。
アイツなら、漫喫で夜を明かすなんてことも、しそうだな。
そもそも、なんで、東京来たの?
オレに会いたかった?
でも、話しも合わないのに……?

謎だよ〜
 
けど、ほんとオレ、兄貴のこと、全然わかってないんやなぁ〜
兄弟って、こんなもん?
 
ユキのことも、気になってしょうがなかった。
オレは、ユキのこと、意識しちゃってる?
 
けど、そりゃ、女の子が、部屋に来たんだから、ドキドキしちゃうのは、当然だろっ……
いや、けど、それだけじゃ、ない。
この胸の高鳴り……は、何?
 
うわぁ〜〜
けど、もう、眠いよ。
 
今日も、店開けないといけないんだし。
もう、寝よ。
 
このベットに、ユキが眠ってたんだ。
ユキの香りが残ってる。いい匂い。
 
このシャンプー、何? 「椿」、「ティモテ」、「ティモテ」なんてもうないし! 
ははっ、ばっかじゃない。
 
枕とか、毛布のユキの残り香をいっぱい吸った。
オレって、変態だぁ、ヤバいね。
 
疲れた。
 
もう、ねむ……い……よ、ユキ……


     *


ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピ……

「んんっ……」
 目覚ましを止めた。
 午後三時だ。
 いつもより遅めにセットしといた。
 
仕込みがある、けど、たいした仕込みはない、もう少し寝るか、いや、ダメだ、買い出しがある……なに買うんだっけ? ポテチとか、乾き物が切れてるだろ……それに、突き出しは、どうする? 東急ストアに行ってこないと……けど、もう少し寝れる、あっ、製氷機の調子悪いって、業者に電話しなきゃ、業者への電話は何時までOKだ? 二四時間か? んなこたぁない気がする……金曜だから、山田酒舗が注文とりにくる……
 
あぁ〜、とにかく、つべこべ言ってないで、起きろよ! オレ!
 
起き上がってみたが、頭がぼーっとする。       
 
今日、ユキは、店来るかなぁ……?

シャワーを浴びて、買い出しに向かった。

駅のガード下のとこにある東急ストアの前に自転車を止めた。
 
なんか、中央線は、また、人身事故があって、電車が止まってるらしかった。
上下線とも不通ですって、駅のアナウンスが頭上のホームの方から聞こえてきた。
 
中央線は、日本一、飛び込み自殺の多い線路として、知られている。
それで、毎度のことのように、しょっちゅうダイヤが大幅に乱れる。
 
東京では山手線に次いで、代表的な路線なのに、
山手線と比べても、この日常的な混乱ぶりは尋常ではなかった。
 
大槻ケンヂさんが、この地を「日本のインド」と呼ぶのは、
こういうことにも起因するんだろうな、と思った。
 
以前、ユウヤは、この東急ストアの前で、
大きなリュックサックを背負い、あたかも、天竺から帰還した玄奘三蔵法師のような大槻ケンヂ氏と、
すれ違ったことがあった。
一瞬、目が合った気もした。


そんで、東急ストアでは、
ミニトマトと、ポテチと、ミルクと、えいひれと、するめと、
トロピカーナのグレープフルーツジュースを立て続けにかごに放り込んだ。

それから、店内をぐるぐるしながら、天狗印のビーフジャーキーとか、カルパスとか、
切れてるチーズとか、明治プレーンクラッカーとか、下関産うるめってのも、買ってみた。
 
あと〜、なにがいるんだっけ……
 
乾き物ばっかじゃなくって、ちょっとは、気の利いたメニューも、置いてみたいと思った。
もうちょっと、つまみとか、料理とか、勉強してみなくちゃ……
それに、バーのことも。
 
今更ながら、ほんといい加減に仕事してるなぁと思った。
もっと、しっかり、ちゃんとしないと、ユキのためにも。
 
えっ? なんで、ユキのため……
どうしたいんや、オレ……
 
ユキは、料理とかするんかなぁ?
できなそ〜
けど、ああ見えて、意外とできたり……
 
それに、オレは、ユキの育ちの良さそうなとこ、
これまでも、なんとなく感じていたし。

アイツ、そう言えば、なにやってるの?
ニートとかって言ってたけど、
それにしては、しょっちゅう飲むような金がよくあるよね?
 
「パパ」がいるとか? まさか……
「へんなこと」やってるとか? 

えっ……、風俗とか、援助とか、援助とか……。
まさか、ね……
 
それに、風俗やってたら、ニートって言わないよね?
いや、社会的にはニート?
 
ニートって、どういうこと? 
仕事してても、税金払う仕事じゃなかったら、ニート?
 
これまで、なんで、ユキのこと、
もう少し突っ込んで、話し聞いてなかったのかと、不思議に思った。
 
仮に、もし、万が一、ユキが、汚いオヤジなんかに抱かれてるとこ、
ちょっと想像してみただけで、耐え切れない気持ちになった。
イケてるメンズでも嫌だけど……
 
そんなんするくらいなら、オレが面倒みてやるよ?
なんて、なに、旦那気取りなんだオレは……


   
続く
   


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中央線を抱きしめろ!!
チェン・スウリー

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posted by ジャンク派 at 21:19 | Comment(0) | 【中央線を抱きしめろ!!】